朝、九江の街はぼんやりと霧でにじんでいる。湿度は高いが涼しい。松や楓、さらに名前は分からないが南方の葉の広い木々の緑が美しく、特にサルスベリの深い桃色が輝いている。

休みの日の朝は正門方面に散歩に行く。一回り１時間のコースだ。正門と校舎の間は公園になっている。直径が３０メートルもありそうな噴水池の周りはきれいな周回道路が植え込みの中をさまざまに楽しめるように続いている。いっても大統領官邸のような正門ははるかかなたに見え、まるで横幅の広い３００ヤードのゴルフ場のようである。

　食べ物の買出しや雑用に校内のスーパーに行く。以前とは違い、スーパーや郵便局の対応はこの５年間で大きく変わってきたようだ。待っている間に買ったものを袋に入れてくれたり、郵便物の切手を貼ってくれたりというようになった。上海万博をきっかけに中国政府がマナー向上めざしていることもあって、九江でも以前よりくわえタバコ、大きな声でしゃべる、クラクションを所かまわず鳴らすことなど減ってきているという。

学生の方はもっと変わってきた。休日の学生はさまざまに楽しんでいる。寮の真ん中にあるスーパーの前の広い道路には売店のようなかわいい色とりどりのテントがたてられており、その下でギターを持って歌っているグループ。クラブ活動の勧誘をしているグループ、トランプなどのゲームを楽しんでいる男女のグループなどにぎやかである。以前とは違って、リッチな学生も多い。ウォークマンのようなイヤホーンで音楽を聴きながら歩いたり、茶髪、ピアスをしていたりする学生も目につく。何万円もする電子手帳を持っている学生も多い。心斎橋あたりを歩いている女の子のような高いかばんと新しい服装もよく見られる。　　

　午後３時すぎ、高田九江友好会の「友好の部屋」に行った。一教室分を占め、関心を引くように展示がされていた。よく整備されていて、友好会の頑張りと日本への高田への理解を深めてほしい、そんな願いも十分に感じられた。その部屋では小林先生が休みの日を利用して日本語指導の補習をされたり、進路指導の学生も来ていた。いろいろな活用があってよいと思った。私も毎週木曜日の夜の日本語教室に顔を出すことにしようと思っている。

新学期がはじまって３週間目に入り、学生たちもいよいよ授業のほうものってきた。そんな折、子どもたちからの思わぬプレゼントがあった。いっぺんに気持ちが晴れた。先週の金曜日９日は「先生の日」だった。教室に入るなり、学生たちは「おめでとうございます」の合唱。教えてくださる先生に感謝する日だとか。学級の学生からプレゼントをもらって感激。日本にもこんな日があってもいいなあ、と思いつつ、がんばろうと心新たにした。

　学生たちの変わらない元気な挨拶。休憩時間に班長の学生が黒板をきれいにしてくれる。そして、使った黒板消しを教卓の下ではたき始めた。おもわず、ストップ。教卓の中や下だけでなく学生机の中や教室はごみが目に付く。そこで一人５個のごみ拾いをしてもらったが、なぜそんなことをしなければならないのか、きょとんとしている学生も。少しきれいになった教室で、みんなが日本の会社で仕事をする機会があれば、下にごみを捨てることは注意されることだし、少し早く来て掃除をするとまわりからの信頼が高くなるなどの話をした。納得した学生もいたようで、授業の終ったあと、ごみでいっぱいになった袋を捨てに行きますと申し出た学生も現れた。うれしかった。

　１７日は午後から一昨年高田に竜踊りの学生たちと一緒に来られた芸術学部の元部長コン先生を訪問した。今年５９歳で退職、今、学部長は譲られたが元の部屋で学生の指導に当たっておられる。部屋に入るなり、私のこともおぼえていて、手をぎゅっと握られた。高田でのことは強い印象に残っていたようだ。私の家で食事したことやウイングのこともしっかり覚えておられた。「もらったＣＤは車の中でずっと聞いている、またもらった鈴も車につけている」と懐かしそうに話しておられた。なによりも高田での書道家同士の交流は特に楽しかったようで、未だ興奮冷めやらぬようだった。私が退職して九江へ仕事に来たと言ったら目を丸くされていた。退職したもの同士、交際をしていきたいと強く言われ、お土産の水墨画をもらって退室した。