１２月５日（土） に南昌で日本語検定試験があった。日本語学科の学生はこの試験で一級合格が大きな目標である。そのため、何ヶ月も前から図書館や自室でおそくまで勉強してきた。日帰りもできないことはないのだが、交通渋滞や体調のことを考え、土曜日から泊りがけで出て行く学生がほとんどである。試験を終え、帰ってきた学生に、日本語検定の結果を聞いてみた。１時間目の文法や読解で時間が足りなかったと口々にぼやいていた。また、問題用紙の不備なのか、最後の問題が別のページに印刷されていて、全部終ったと勘違いして、気がついたときには時間が足りなかったと困った顔をしていた学生もいた。

また、せっかく南昌まできたのだからと、南昌の大学に久しぶりの友だちを訪ね、楽しかったと話している学生もいた。いずれにしても、三月の発表をみんな笑顔で迎えてくれればと祈った。　　

今、４年生の授業は会社訪問や卒業写真や卒業パーティーがあるのでなかなか学生が集まらない。そんなこともあって、４年生の学生たちと期末試験の日程を相談した。当初は３０日にしようと考えていたが、年末から本格的に会社訪問をさせて欲しいという学生が多くいたので、２３日にすることに　した。授業は一応、１６日で終わりということにした。授業が終った後、クラスの学生たちはみんなでお礼に来た。そして、ワインをもらった。ワインをもらって本当のところ困惑もしたが、班長がぜひとも真剣に言ってくれたので、とりあえず受け取った。

先生にお礼を持ってくる学生など日本ではほとんど見られない。それに比べて中国の学生たちの教えてもらっていることへの敬意や大人としての意識をもっていることに歴然とした差を感じた。

　夜は七時から日本語コーナーである。たくさんの学生が着ていた。今日は私もグループの中にはいり、話をすることにした。正倉院の琵琶の話が出てきたので、それに引っ掛けて小泉八雲の「怪談」の中にある『耳なし芳一』の話をした。平家物語のことや源平の戦いのことも含めて声を潜めて話をするとみんな一生懸命聴いていてくれた。次は学生たちの思い出話をしてもらったが、高校時代はみんな勉強やスポーツ一筋だったようだ。もっとインターネットや携帯、ゲームなどありもしない環境での高校生活だから当然だと思う。今、大学に入ってきて勉強だけでなく、そんなことも珍しく必死に新しい知識を吸収しようとしている。ただ、目新しいことばかりなので、そのことにのめりこんで学生生活が崩れないようにして欲しいと思った。

１２月１０日（金） は午後の３時半から４年生の「ディベート」のコンクールがあった。テーマは「お金があれば幸せか。」「家庭と仕事」「学習と社会体験」「性善説と性悪説」など対立する意見をもとにグループで討論する。審査員を頼まれて参加したが、さすがに四年生になるとほかの人の意見をしっかりと聞き、鋭い意見を述べる。途中で学院長も顔を出したので学生たちはいっそうに張り切っていた。同じ審査員の中国人の先生から最後のまとめをして欲しいと急に言われてあわてた。そういうことは事前に一言言って欲しかったなどとぼやく言葉を心の中に収めて、研究会の講評のつもりでしゃべった。学生たちには受けたようでほっとした。

気がつけば師走も中旬、期末試験の問題も昨日主任の先生に印刷を頼み、一段落。そこで、年賀状を書こうと思い立った。校内の郵便局に行き、年賀状のことを聞いた。あの中国独特の赤いカードにおめでたい図柄や文字が描かれている。航空便は封筒に入れて、11元。もう一つは葉書。可愛いヒツジの絵が描かれている。これで５元である。

その図柄を、来年はウサギ歳なのにどうしてヒツジなのだろうかとふと思った。後で学生に聞いてみると、そのウサギは「イーヤンヤン」という全国的に人気のあるアニメキャラクターであるらしい。そこで、日本と同じ懸賞つきでおもしろかったので買った。ただ、表は切手を四枚も貼らなければならないのであて先だけで埋まり、裏は濃い青色がバックの色なので、インクが見えにくい。そのほうが一言だけでよいから楽だと、手抜きの年賀状は一晩で仕上がった。ただ、懸賞に当たってもどうやったら賞品を届けられるのかそれを考えるとなにやら可笑しかった。

 

このところの気温の低下と夜明けの時間が遅くなってきたとのことで、朝の散歩が億劫になってきている。しかし、思い切って起き、部屋を飛び出した。歩き始めるとやっぱり来てよかったと思う。また、学生たちが暗い中を耐寒駆け足のように、集団で声を掛け合いながら走ってくる。駆け足は冬の風物詩であると日本の子どもたちの様子も思い出していた。

ここの教室には暖房がない。さらに、６階であることで、風が強く、窓を開けると教室の温度が一度に下がってしまう。学生たちの中にはまるで札幌雪祭りのようなフードのついた、そして毛のついた襟のヤッケを着ているものもいる。

　夜は芸術学部の学生たちの作品展覧会に誘われていく。紙を溶かして皿状に整形し底に絵や文字を書いて、何枚もぶら下げていたり、紙を丸めたり、折ったりしていろいろな造形物を作っている。指導者がアメリカ人の例のローズさんなので、学院長をはじめ国際交流の所長も来ていて盛り上がっていた。また、前の学院長で、高田に来られたコン先生の顔もみることができた。とても、お元気そうだった。作品の一つに、紙の器に米を入れ、その上に卵の殻を置き、そしてその中にニンニクがひとかけら入れてある、そんなものが何十も並べてあった。ローズさんの作品らしいが余り意味がわからなかった。ただ、夫のデビッドさんはその作品をつくるため、家中の器が消えてしまったこと、卵を毎日食べさせられたこと、ニンニクをつかったパスタのメニューが続いていることなどぼやいていた。でも、２人とも67歳のこれまでこんな調子でやってきたのだろうとおかしかった。

 

１２月１５日（水） は朝から雪である。九江での始めての積雪を見る。風が轟々と音を立てて流れている。もうすでに、５〜６センチ積もっている。昨日から強い風が吹き始めたので、学生たちに、この時期の強い風は山から里へ雪を下ろしてくるので、「雪下ろしの風」というと話したところだった。今日は幸い、午後からの一時間だけの授業なので午前中はゆっくりと窓から雪景色を眺めていた。部屋で昼食を済ませ、授業の準備をして、外へでようとドアーを開けると廊下にも１、２センチ雪が積もっている。廊下はベランダのようなつくりでそとの景色と一体である。この廊下は大理石様のきれいな石が敷き詰められているので雨の日などは滑りやすい。それで、用心して一歩踏み出すと、まるで氷の上のように足が滑っていく。あわててドアーにしがみついて体を支えた。すぐに部屋からモップを取り出して、雪を片側へ寄せることにした。このフロアーは３室あるのでついでによその部屋の前も除雪しておいた。おかげで、体もぬくもり、教室へは温かく向かうことができた。

夜は、一年生の趙君と晩御飯を食べることにした。趙君は朝鮮族の男子学生で、実家は吉林省長春である。さすがに寒さには強く、元気いっぱいである。寒いので、重慶名物の鍋を食べることにした。注文は趙君に頼んだ。鍋はまん中に仕切りがあって、辛そうで真っ赤なだしと私のための薄口のだしがはいっている。いろいろな野菜や肉を注文してくれた。ためしに、赤いほうのだしをなめてみる。まさに、激辛で飛び上がった。そのほうは遠慮したが、この時期の野菜は本当においしかった。２人でおなかいっぱいたべた。その夜は暖かく眠れた。

翌日は雪はやんだが、初雪が目にまぶしいくらい輝いている。空は明るいがとても冷たい朝である。すぐにやかんでお湯を沸かす。部屋を暖めるのと顔を洗うのに使う。午前中に日本語クラブの金さんから電話があり、毎週木曜日の夜に開いている日本語コーナーは今日で年内の最後にしようと思っていたが、昨日からの雪で足元も危険なので、中止としたいとのこと。そして、お世話になったことへのていねいなお礼とまた、来年からのお願いがあった。そのあいさつはとても丁重で、日本の大学生ではできないような言葉遣いだった。日本語学科の学生たちは敬語の学習に関心があるので、どの学生も言葉遣いはていねいである。

いよいよクリスマス週間が近づいてきた。クリスマスの日、外国人教師は授業が休みである。アメリカ人教師は今週中にテストをすべて終え、来週はクリスマスに熱中するらしい。われわれ日本人教師も同じように授業が休みなのはおもしろい。去年は国際交流主催のパーティーがホテルであったようだが、今年は、経費の削減だろうかまで声がかからない。

　日曜日の朝は曇っていたけれど、気温はそんなに下がっていなかったので、久しぶりに市内に出ることにした。日ごろお世話になっている人へのクリスマスのプレゼントを買っておきたかった。この間は１０１系のバスに乗ると故障があって途中で降ろされたので、今日は別のバスに乗ろうと思っていた。ところが、バス停に行くと１０１系のバスが待っていてよくすいていた。新しいバスだったのでもうあんなことはないだろうと乗り込んだ。道路は年末のせいか、交通量が多く、バスの運転も荒っぽく感じられた。途中まできたときに、バスが急停車した。運転手が血相を変えてバスから降りていった。何事かと窓から見てみると、タクシーの運転手となにやらトラブルらしい。タクシーの割り込みに運転手が怒っているようだ。余りに大きな声でやりあうものだから、周りの家の人も集まってきて、人の輪が幾重にもできる。そのうち、運転手はバスに戻ってきて、乗客に次のバスに乗るよう指示した。どうやらとことんやるつもりらしい。どうも、この１０１系のバスは鬼門のようだ。仕方なく、乗客は次のバスに乗り換えた。

 

１２月２０日（月） になって、木曜日の雪もほぼ消えた。いよいよクリスマス週間。１時間目の教室へ行くと、学生たちはいつも眠そうにしているのに、今朝は熱心に自習している。どうやら昼からの教科で試験があるらしい。学生たちも来週からの試験週間をまえに、おしりに火がついてきたようだ。授業を終えて職員室に戻ると、中国人女性教師からクリスマスプレゼントをいただく。学校前の学生街もすっかりクリスマスの飾り付けを終えて学生たちを待っている。中国のクリスマスプレゼントの定番はりんごである。学生たちからわたしたちへもりんごのプレゼントがある。中国語でりんごのことを「平安果」とも書くそうである。この「平安」の文字が縁起のよい言葉として福をもらえるということらしい。　私の方も、先日、街の百貨店で買ってきたクリスマスプレゼントをお世話になった人たちに配った。プレゼントは日本の明治製菓のチョコレートである。少し大きめの箱だが一つ２１元した。２５０円ほどである。日本で買うより少し安いが、この国のお菓子としては高価である。お世話になっている人に渡しておいた。

　今朝は暖かい。下着も一枚少なくして何か身軽になったようだ。午前中に中国銀行へ行く。帰国の航空券代金の振込みだ。紹介してもらった航空サービス公司で安い切符が手に入った。来るときは片道６万円以上もかかったが、今度は往復で４６６７元、５万５千円だ。それも上海では浦東で乗り換えられる。銀行では、案内係の男の人に振込みの仕方が分からないと説明すると全部やってくれた。中から、女性の主任を呼び出して用紙の記入までしてくれた。この国もサービスがよくなったものだ。無事振込みを終えて、バスで市内に出る。バスは唯一の市内の交通機関であるだけにいつも込んでいる。バスに乗って感心するのは、座席に座っているのは年寄りばかりである。バス停で降りる人があっても、その前に立っている人は周りをみて、自分より高齢の人がいると必ず座るよう声をかける。また、バス停で年寄りが乗ってくると必ずたって座席を変わる。日ごろはごみのポイ捨てや食事の仕方に目を潜めることも多いのだが、この敬老精神はとても気持ちがいい。

 

１２月２４日（金） はクリスマスイブで外国人教師の授業は休みである。朝から気温が低く、風が強い。予報では午後の２時ごろから雪になるとのこと。ここの天気予報は実によくあたる。やはり、昼になると予報通りしっかりと雪が降り出した。あすはきっとホワイトクリスマスになるのだろう。

夜はアメリカ人の教師たちがイブのパーティーをするということで、私もお誘いを受けた。３０人くらい集まるらしい。わたしは雪が降って気温も下がりそうなので、一応ご辞退申し上げた。すると、４時ごろになって、２年の肖さんから電話がかかって、これからクリスマスのプレゼントを持って伺いたいとのこと。雪の中を肖さんと劉さんの２人でやってきた。プレゼントはクラスの全員からだとりんごとみんなのメッセージカードを持ってきてくれたのだ。感謝・感謝である。二人とは、せっかくきてくれたので、いっしょに夕食を食べることにし、日本流の炊き込みご飯を作った。つくったと言っても、炊き込みご飯の元をいれて炊飯器のスイッチを入れるだけだか。学生たちは本当においしいといって、たくさん食べてくれた。外国人のパーティーに行かなくてよかったと思った。そして、学生たちからもらったりんごが窓際にどんどん並ぶ。

　翌朝、窓から外をみて、雪がさほど出ないことがわかりほっとした。雪かきでもと思って廊下へでて見るとドアーに袋が下がっている。そして、袋の口にメッセージカードがついてある。それは、となりのアメリカ人女性サンドラからのクリスマスのお菓子だった。私もきょうは学生たちとクリスマスパーティーをする。部屋の壁に色画用紙と飾りで大きなクリスマスツリーをつくる。なかなかのできばえだ。学生たちは若いし、何よりも楽しみはご馳走である。スーパーで買った北京ダック、ジャガイモを私が油で揚げたフライドポテト、焼き餃子や卵の料理などである。二時になって肖さんとクリスマスケーキの買出しに行く。大きくフルーツいっぱいのケーキが６００円ほどである。ついでにフランスパンも買って帰った。三時になる全員集合。みんなで食べたり、しゃべったり、クリスマスソングを歌ったり、切り紙工作をしたりして、七時過ぎまで楽しんだ。みんながもってきてくれた果物を分けて、それぞれにプレゼントした。みんな満足そうに暗くなった校内を寮に帰っていった。私にとっても楽しいクリスマスの一晩だった。