高田九江友好会から九江学院に派遣されて、あっという間の二ヶ月が過ぎた。学生たちともじっくりと関わることができるようになった。高田・九江「友好の部屋」も小和田さんに訪問していただいた翌週から、１年生がどっと来てくれるようになり、部屋は盛況である。小和田さんの訪問が少しあとだったらと申し訳 なく思った。

私が授業を担当していることもあって１年生に「友好の部屋」を覗きに来るよう言ったのがよかったのかも知れない。ただ、１年生は日本語がまだまだわからないところが多く、上級生がサポートしてくれている。部屋においていただいている小学生用の学習辞典などは楽しい絵がいっぱいで役に立ち、来ている上級生たちも私がいろいろな話をするので楽しんで手伝ってくれる。１年生も大喜びだ。国語の勉強を始め、いろいろな話をして夜の八時半に終った。

上級生たちとの付き合いもできるだけするようにしている。教材の準備をしたあと、土曜日の夜は女学生２人との食事。若い学生なので楽しくしゃべりながらよく食べる。一人は内モンゴル、あとの一人は九江市内と二人のふるさとはかけ離れているが、それだけに話も興味深かった。内モンゴルの子はふるさとに 帰るのに、北京経由の列車で２日半かかる。場合によっては座席が取れないときもある。そんなときは通路で荷物に腰掛けて過ごすという。両親は漢族だからモンゴル族のいざこざもなにかとあるなどの話をしてくれる。九江の子は家が農家で夏休みは帰ると綿摘みの仕事がある。すぐに顔が日焼けするのであまりしたくない。帰る日をできるだけ延ばすのだとか。話を聞いているだけでも興味深い楽しい夜だった。

　翌週は違う別の女子学生が２人訪問してくれる。実は、「カレーを作っていっしょに晩御飯を」と投げかけたら、喜んで来てくれた。寮は六人部屋でいつもいっしょのメンバーでは、やはり、たまには生き抜きもしたいのかと思う。どちらも真面目な優等生で日本のことはよく勉強している。日本から持っていたカレーのルーの箱一つからも質問の連続である。とにかく、寮では調理は禁止らしい。もし、火を使うとルール違反で奨学金が止められるのだそうだ。そんなこともあって部屋に来ると、家に帰ったみたいとリラックスしているようだ。スーパーへ買い物に行くと、だいたい材料はそろう。バターだけが手に入らなかった。

学生たちに箱裏の作り方の説明をしっかり読ませて、作るのはまかせておいた。私の方はトマトとキャベツを買ってサラダ作りをすることにした。出来上がったカレーに彼女たちは『おいしい。一生の思い出だ』と感激。料理を写真に撮ったり、サラダにかけたマヨネーズとケチャップの混ぜたレッシングの作り方などを根掘り葉掘り聞いたりしていた。

翌週は梁君が日本語検定の勉強で分からないところがあるとの事だったので特別補習をした。梁君は私のクラスになってからとてもよく勉強するようになったとクラスで評判の学生である。日本語検定は年々難しくなってきており、日本の学生でも合格は難しいレベルの問題だと思う。私も説明に悪戦苦闘して、終ったのが５時半。そのあと梁君を連れて夕食にいく。支払いは梁君は自分が出すと恐縮していたが、これが日本のやり方だといってこちらがお金を出しておいた。

この大学では必要なプリントは班長の学生に頼んでクラスの人数だけコピーしてもらうことになっている。当然、費用は学生もちと言うことになっていて、班長が学生から集めているのである。コピー代は１枚０．１元である。全部で８０枚ほどなので８元になる。みんなから集めればたいした金額ではないが、日本の学校から考えるとプリント代を学生に負担させるのは気になるところではあるが、逆に教師がお金を払うと、クラスの班長の面子をつぶしてしまうことになるのだそうだ。確かに班長がしっかりしているクラスは授業もやりやすい。いずれにしても面子を大切にする国である。

先週は、授業が終ると、１年生から「先生は可愛いですね」と言われた。そこで、それはどういう意味なのだろうかと一瞬戸惑ってしまった。「ありがとう」と言うべきなのか、それとも・・。

すると、私の困ったような顔を見ていた通訳の学生が、「先生、それはよい言葉なんです。今、中国ではすばらしいこと、気に入っていることに可愛いと言う表現をするのです。実は、この言葉は日本から入ってきた言葉なのです。」と説明してくれた。そういえば、日本の若い女性がなんにでも、すぐ可愛いという。その表現が輸入されたのだと分かった。　日本語を教えていて、特に経済や政治関連の言葉はかなり日本語がそのまま使われていることが多くて、学生たちにその意味などを説明すると驚きとともに一生懸命聞いてくれる。

　先週は１年生の運動会が今日から３日間行われた。初日は学部ごとに工夫を凝らした入場行進は楽しい。特に、芸術学部のデザイン科の学生は自分でデザインした服を着て、ポーズをとるデモンストレーションを入れるなど感心させられた。来賓も３０人ほどいて、学生たちの張り切りぶりが気持ちよかった。８０００人もいる１年生が全員出場すると言うことはないが、応援合戦が華々しく、学部対抗で盛り上がりがあった。

そんなことで、私たち教師も３日間のお休み、そこで外国人教師のアメリカ人夫婦と南昌に日帰り旅行にいくことにした。この１０月にできた九江から南昌まで新幹線に乗るのも目的の一つである。九江の駅は新幹線ができたため、一年前とは一新したそうだ。斬新で大きく、美しい駅は日本の新幹線の駅と同じである。プラットホームの電車は「和諧号」という名前が車体に美しく入っている。ゆったりとした一等席に腰を下ろすと、中国にいることを忘れてしまう。車掌も美人の若い女性で、簡単な車内販売の女性も笑顔があってレベルが高い。南昌まで４０分あまり、５０元である。二等は横５列になり、４２元である。そんなこともあって一等席から売れていくらしい。在来線は２０元であることを考えると乗っている人もマナーもよい。この新幹線は、フランスのＧＴＶの技術ででき、途中で２４７ｋｍの表示が出た。上海と南昌との新幹線に乗り継げば、日本に帰るのも楽になるだろうと考えていた。ところが、南昌の駅に着き、先に帰りの切符を買おうと思って、切符売り場へ行くと、１５ほどある窓口に人の列が３〜４０人並んでいる。そしてなかなか進まない。やっと、切符を買ったときには、１時間もかかっていた。壁にかかっているの大きな電光掲示板には、中国全土への列車の切符の販売状況が明示されていたが、一週間前でも売り切れの切符が目立った。

南昌は省の首都だけあって繁華街も桁外れに大きく、にぎやかであった。店も新しく、品揃えも豊かであった。　アメリカ人夫婦は新幹線に乗ることとフランス資本の大きなスーパーので日ごろ手に入らない輸入食品を買いたいのが目的であった。このスーパーは郊外にあり、買い物客の中国人はみな車でやってくる。品物の並べ方もその規模もアメリカのスーパーとよくにている。ともかく、中国の変わり様を見せ付けられた旅行であった。

１１月７日、日曜日、今日は昨日よりさらに気温が上がり、学生たちも初夏のような服装だ。数日前から引いていた鼻かぜも治って調子を取り戻した。キャンパスではさまざまイベントが開かれ学生が集まっていた。学生相手の携帯電話の会社は移動式のステージを持ち込み、携帯電話の宣伝を兼ねて、本職の美容師による新しい髪形の実演などを行っていた。これには女子学生がやはりたくさん集まっていた。学生たちにはこのような形でさまざまな情報がもたらされることで、九江のような田舎でも学生たちが垢抜けしてくる理由が少しわかった。

　夕方校内を散歩していると、渡り鳥の群れが南の方をめざして飛んでいった。夕日に映えた見事な１００羽近くのＶ字の集団に思わず見とれてしまった。渡り鳥は冬の到来には敏感で、今は温かいこの九江にも間もなく厳しい冬が来るのだろう。